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吉良貴之, 地層処分の超長期的影響に関する世代間正義と民主的合意形成の法哲学的・法政策論的基盤構築

地層処分の超長期的影響に関する世代間正義と民主的合意形成の法哲学的・法政策論的基盤構築

 2020-21年度 原子力発電環境整備機構(NUMO)研究支援事業(詳細はこちら

 研究代表者: 吉良 貴之(宇都宮共和大学・専任講師、法哲学)

 研究協力者: 板垣 勝彦(横浜国立大学・准教授、行政法・地方自治法):個人サイトresearchmap
 研究協力者: 今 喜史(宇都宮共和大学・専任講師、応用経済学):researchmap
 研究協力者: 戸田 聡一郎(東京大学・助教、脳神経科学):researchmap
 研究協力者: 中村 安菜(日本女子体育大学・准教授、憲法):researchmap
  ほか、院生・研究生2名。(50音順)


 このページには、本研究プロジェクトについての情報(成果物、イベントなど)を掲載していきます。

【実施状況】

 ▽ 2020.12.07 [報告]第1回中間成果報告会(吉良)
 ▽ 2020.11.27 [会合]第3回全体会議(報告:板垣、中村)
 ▲ 2020.10.30 [発表]SmaSys 2020, "Responsibility for Diachronic Artifacts" (comments by Motoki Miura) , online. → YouTube
 ▲ 2020.09.29 [会合]第2回全体会議(報告:今、戸田)
 ▲ 2020.07.21 [会合]第1回全体会議(役割分担等の確認、各自の近況報告、吉良研究報告)
 ▲ 2020.06.12 [情報]エム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社(事務局)での情報公開(採択者の一覧など
 ▲ 2020.05.12 [情報]研究期間の開始


【研究概要】

1. 本研究の学術的背景と、研究課題の核心をなす「問い」

 本研究では、法政策の原理的・哲学的研究を行う分野である「法哲学」の観点から、将来世代への責任の根拠と範囲を問う「世代間正義 (intergenerational justice)」論の蓄積をもとに、地層処分事業の道徳的基盤を探求する。世代間正義論は1960年代以降の地球環境問題の顕在化にともない、従来の共時的な正義論だけでなく、通時的な正義論を問う必要があるという認識のもと、活発に議論されるようになった。1971年のジョン・ロールズ『正義論(A Theory of Justice)』がその古典といえるが、その後、現在世代・将来世代というときの「範囲」はどこまでなのか(国境を超える問題への対応や、時間的にどの程度を想定すべきなのか、など)といった論点を中心に議論が精緻化されてきた。他方、実践的にも、1997年の京都議定書体制での先進国・発展途上国の間での妥協(排出権取引が象徴的)から、2015年のパリ協定体制での地球規模での普遍的義務の強調まで、問題の深刻化に応じて道徳的な観点の転換が見られる。こうした理論的・実践的動向を踏まえた理論構築が迫られている。
 特に、放射性廃棄物処理事業は、現在時点での処分地選定などの民主的プロセスと、数万年規模での将来への影響の不確実性から、世代間正義が最も純粋な形で問われる問題であるといってよい。そこで本研究課題の核心をなす学術的「問い」は、① 超長期的な将来に関わる問題への現在世代の責任はどれだけの範囲の、どういった根拠によるものか、② 現時点での技術水準および将来にわたる技術発展に関わる不確実性をふまえるとき、現在の法政策決定はどのようにして正統でありうるか、という2点になる。理念的な「正義」と現実の「法」を切り離すことなく、一貫した視座のもとで問う法哲学の問題設定は、地層処分事業の社会的・道徳的基盤を強固にするために必要不可欠である。

2. 本研究の目的、学術的独自性と創造性

 本研究の目的は以上のように、法哲学の観点からの地層処分事業に関わる法政策の道徳的・実践的基盤構築にある。従来、以上の「問い」① は主として(応用)倫理学の一領域として研究されてきた歴史があり、特に日本では倫理学者の加藤尚武が「環境倫理学」の一分野として1990年代以降、リードしてきたことから、この問題はもっぱら「世代間倫理」の名のもとで探求されてきた。それは理論的精緻化にはつながったものの、現実の法政策とは距離があり、実践的性格が弱いという短所もあった。それに対し、本研究は法的な価値としての「正義」を前面に出し、現在世代と将来世代、あるいは各世代内部の利益対立・価値対立を調停する分配の原理を探求する法哲学としての探求を行うことから、現実の政治過程や法政策論と一体のものとして考察できる強みがある。抽象的な理論構築にとどまらず、こうした分野横断的な創造性に開かれている(そして実際、そのための研究グループを組織している)ことが本研究の最大の特色といえる。また、純理論的側面に限ってみても、上述のパリ協定体制における地球環境問題の普遍主義的な転換を踏まえた世代間正義論の構築の試みは、従来の分配問題での枠組みとは鋭い緊張関係にあり、その法哲学的探求は世界的にも最先端の作業となる。
 次に「問い」②について、法哲学上の世代間正義論を実際の法政策に生かすため、本研究では数人の研究協力者との協働で、以下の問題に取り組む。まず、放射性廃棄物処理場選定にあたっては、2010年の東日本大震災以降の強い反発のもと、いかにして選定地での民主的合意形成をはかるかという問題がある。ここでは、いわゆるNIMBY(Not In My BackYard)施設(ゴミ処分場、下水処理場、自衛隊・米軍基地、原子力発電所など)建設をめぐる地方自治体レベルでのこれまでの取り組みを参考にしながら、行政法政策論的な探求を行う必要がある。そこでは、原子力の恩恵を受けてきた現在世代の責任をどう捉えるかという世代間正義の問題や、将来世代の生存権保障をどれだけの水準で行うべきかといったことを、一定の科学的不確実性を前提にしながら考察しなければならない。しかし、放射性廃棄物処理場をそうした「迷惑施設」とだけ捉えることは、現在世代・将来世代の間の、そしてその内部(つまり地域間での)利益や価値の対立を必要以上に大きくしてしまう。さて、民主的政治過程の現在中心主義はどうすれば克服できるか。たとえばヨーロッパのいくつかの都市での処理場選定においては、そうした利益対立・価値対立の構造そのものを組み替え、地域インフラの整備や雇用の創造、「研究都市」化、そして将来世代や環境に配慮する都市としてのブランド作りなど、論点の多様化によって対立を和らげるとともに民主的政治過程を活発にする取り組みがなされている。本研究もそれを参考にしながら、社会的価値の創造的組み替え可能性(法哲学的探求)、超長期的な影響に関わる人々の道徳意識の変化可能性(道徳心理学的・脳神経倫理学的探求)、そのエビデンスとなる経済効果の基準策定(地域経済学的探求)といったことに、研究グループで分担して取り組む。このように、将来世代への責任の範囲と根拠を哲学的に探求した上で、それを地方自治体レベルでの民主的政治過程にどのように生かしていくかを、[1]「迷惑施設」建設をめぐる従来の行政法・地方自治法の知見を踏まえ、[2] そこでの政治プロセスを活発にするための、価値対立の生産的な多様化に向けた考察を行う体制を構築していることが本研究の大きな独自性・創造性といえる。


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