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 エイドリアン・ヴァーミュール著(吉良貴之 訳)『リスクの立憲主義:権力を縛るだけでなく、生かす憲法へ』(勁草書房、2019年12月)


ヴァーミュール『リスクの立憲主義』

 Adrian Vermeule, The Constitution of Risk, Cambridge U.P., 2014 の全訳です。

 ★ 3500円(+税) 四六判・328ページ、ISBN: 978-4326451173
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 本書はアメリカ憲法学の「制度論的転回」を主導するエイドリアン・ヴァーミュール(ハーバード・ロースクール教授)の初の邦訳書です。「立憲主義」を単に権力の暴走に対する予防的制約として捉えるのではなく、権力の最適なパフォーマンスを引き出すための権限配分の構想として捉える議論を展開しています。表題の「リスク」は環境、治安、公衆衛生といった具体的なリスク(一階のリスク)というよりも、それを管理・規制する機関のマッチングがうまくいかず、政治的意思決定がデッドロックに陥る事態を指しています。憲法の仕事はそうした「政治的リスク」「二階のリスク」を避けるための制度設計である、というのが本書の中心的な主張です。予防に偏った制度配置では他のリスクが見過ごされるかもしれず、憲法はつねに関連するリスクのすべてを考慮に入れなければならない、とされます。
 本書はアメリカ憲法学の本ですが、憲法基礎理論・憲法思想史的な内容が多く含まれているので、もちろん法哲学を含め、いろんな分野の方に面白く読んでいただけると思います。もっとも、司法審査に消極的なこともあって、やや保守的な印象を受ける議論が多いことも確かです。しかし、単純に行政権への権力集中を説くようなものではありません。憲法をひとつのシステムとして捉え、意思決定論・組織管理論の視点でもって全体を見渡しながらリスク計算を行おう、という穏当な主張がなされています。その議論は現在の日本国憲法をめぐる議論にも多くの示唆を与えることでしょう。

 ★ 勁草書房サイト「あとがきたちよみ」にて、訳者あとがき「エイドリアン・ヴァーミュール:制度的キャパシティへの全体論的視点」を公開しています。

【著者】

エイドリアン・ヴァーミュール(Adrian Vermeule)
 1968年、アメリカ生まれ。1990年にハーバード・カレッジ、1993年にハーバード大学ロースクールを卒業。1994年からアントニン・スカリア連邦最高裁判事のクラークなどを務めた後、1998年からシカゴ大学ロースクールにて教鞭をとる。2006年にハーバード大学ロースクール教授(公法担当)に就任。アメリカ憲法学における「制度論的転回」の主導者であり、統治システム各部門の能力に応じた権限配分を強調する。特に不確実性下の判断に関する司法の能力に懐疑的であり、司法審査に消極的な姿勢をとる論客として知られている。
 著書に Judging under Uncertainty, Harvard U.P., 2006、Mechanisms of Democracy, Oxford U.P., 2007、Law and the Limits of Reason, Oxford U.P., 2009、The System of the Constitution, Oxford U.P., 2011、Law’s Abnegation, Harvard U.P., 2016がある。なお、本書『リスクの立憲主義』(The Constitution of Risk, Cambridge U.P., 2014)が初の日本語訳である。ほか、エリック・ポズナーキャス・サンスティンなどとの共著書、および多数の論文がある。
 ★ ハーバード大学の紹介ページ
 ★ wikipedia(英語)


【情報】

 2020.07.26 北関東公法研究会・合評会(評者:岡田順太、清水潤、川鍋健)
 2020.07.24 『週刊読書人』「2020年上半期の収穫から」にて、吉井千周先生に取り上げていただきました。


【目次】

日本の読者へ

イントロダクション
 第一節 リスク管理の装置としての憲法
 第二節 二階のリスクとしての政治的リスク
 第三節 誰が規制するのか?
 第四節 リスクと不確実性
 第五節 戦略的/非戦略的なリスク
 第六節 政治的リスク、財産権、契約
 第七節 予防的立憲主義と最適化立憲主義
 第八節 最適化立憲主義の限界:消極的側面
 第九節 他のリスク管理原則の役割
 第一〇節 主張と選択:注意
 第一一節 憲法と公法
 第一二節 機能主義、進化、ルール作成者の意図
 第一三節 本書の計画

第一部 理論

第一章 予防的立憲主義
 第一節 予防原則と政治的リスク
 第二節 全体的原則と憲法デザイン
 第三節 憲法デザインの具体的原則
 第四節 憲法解釈の全体的原則
 第五節 具体的原則と憲法解釈
 第六節 憲法上の予防原則とその近縁
 第七節 予防的立憲主義:そのテーマと懸念

第二章 最適化立憲主義――成熟した立場
 第一節 予防的主張への反論
 第二節 無益:「紙の上の」予防とコミットメント問題
 第三節 危険性:他のリスクとのトレードオフ
 第四節 逆転:同じリスクのトレードオフ
 第五節 事前の予防と事後の救済:「本法廷が審理する限り」
 第六節 憲法上のリスク規制:「成熟した立場」
 第七節 政治的リスク規制の二つの方法

第二部 応用

第三章 起草者の自己破壊的予防策
 第一節 憲法と世論
 第二節 チェック・アンド・バランス
 第三節 国家の規模
 第四節 不偏性と専門知
 第五節 世論の支配の診断
 第六節 世論の失敗と成功
 第七節 善はさらなる善の敵
 第八節 予防策と予期せぬ帰結

 

第四章 不偏性のリスク――自身の事件の判断
 第一節 自己裁定禁止とその近縁
 第二節 不偏的な意思決定者のコスト
 第三節 トレードオフ
 第四節 不偏性と専門知
 第五節 不偏性と独立性
 第六節 不偏性と機関の「活力」
 第七節 不可避の侵害
 第八節 政治的リスクの計算:経験則
 第九節 不偏性と成熟した立場

第五章 熟慮のリスク――セカンド・オピニオン
 第一節 セカンド・オピニオンの仕組み:いくつかの例
 第二節 区別、想定、定義
 第三節 便益、コスト、比較静学
 第四節 便益
 第五節 リスクとコスト:無益、危険性、逆転
 第六節 セカンド・オピニオン:予防的/最適化アプローチ

第六章 専門知のリスク――政治的な行政と専門家の集団思考
 第一節 行政機関と専門家:いくつかの原理
 第二節 なぜ専門家委員会を尊重するのか?
 第三節 専門家集団の問題
 第四節 最適な予防:行政機関が専門家の見解を拒絶できるのはどんなときか?
 第五節 専門家の意見対立と一階の諸理由
 第六節 事実、因果、価値
 第七節 事前のインセンティヴ
 第八節 二階の理由
 第九節 政治化と専門家の病理:成熟した立場

結論
 第一節 最適化立憲主義の(消極的な)徳性
 第二節 スタイルなき憲法ルール作成

謝辞(著者)
解説「エイドリアン・ヴァーミュール:制度的キャパシティへの全体論的視点」(吉良)
原注・索引

 


【正誤表】

029頁 05行目 nemo iudex un sua causa → nemo iudex in sua causa
247頁 08行目 ジャクソン(Andrew Jackson) → ジャクソン(Robert Jackson)
249頁 10行目 (経済学の用語でいえば「端点解」)を避けるのがよい → (経済学の用語でいえば「端点解」)を避けるのがよい
261頁 14行目 「逆転(perverse)」 → 「逆転(perversity)」
264頁 14行目 東京大学出版 → 東京大学出版


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