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創価大学法科大学院 2018年度・前期・金曜5限「法哲学」(90分×1コマ×15回 担当:吉良貴之)

 連絡事項を書いたり、配布物などを置くためのページです(ポータルと内容は同じです)。
 学年によって「法の哲学と歴史」「法と正義」と名称が異なりますが、同じ科目です。受講済の方はご注意。


【概要】

 「法哲学」「法思想史」にかかわる問題を扱う。各種の法的・政治的問題について哲学的・原理的に考え、実定法の様々な問題を新しく捉え直す視座を得ることを目指す

 (1)【正義論】ジョン・ロールズ『正義論』(原著1971年)以降の法・政治哲学上のさまざまな立場(リベラリズム、リバタリアニズム、功利主義、共同体論、多文化主義など)について、それぞれが現実のどのような具体的問題に取り組んできたかを理解する。
 (2)【法概念論】「権利」「自由」「民主主義」といった各種の法的に重要な概念について、我々が日常的に使っている用法から出発し、法思想史的な変遷も確認しながら、最終的に「法とは何か」という根本問題への考察を深める。
 (3) 本講義は上記(1)(2)を「つなげて」理解することを目標とするが、抽象的で堅苦しい議論ばかりではなく、できるだけ現実の社会問題や実定法解釈論につなげる形で考察を深めることとする。具体的に扱う問題の例としては、裁判員裁判、死刑の是非、改憲問題、一票の格差、ダンス規制、ヘイトスピーチと表現の自由、移民問題、将来世代や動物の権利論、など。扱う問題は受講者の希望に応じる。
 なお、学部講義で扱った具体的な問題のまとめとして、こちらも参照

【到達目標】

 正義論・法概念論のさまざまな立場を比較検討するなかで、法哲学的な思考能力を養う。そして、自分なりに関心のあるテーマを適切に設定し、一貫した立場から論述できるようになること。そして他の実定法科目にもそれを応用できることが望ましい。


【内容と予習課題】

【01 イントロダクション:法哲学を学ぶ意義】

 現代の「法哲学」がどのような学問であり、どういった問題に取り組んでいるか、およびそれが実定法や政治学諸科目にどのようにつながるかといったことを概観し、法や正義を原理的・哲学的に考える意義を理解する。最近の最高裁判例などを具体的な素材として用いる。

【02 ロールズ『正義論』のリベラリズム:「憲法の必須事項」とは何か?】

 ジョン・ロールズ『正義論』(原著1971年)の「正義のニ原理」ほかの議論の骨格を理解し、現代の「正義論」が何に取り組んでいるのかのイメージをつかむ。

【03 功利主義:最大多数の最大幸福】

 ベンサム、ミルなどの古典的功利主義の発想を整理する。そして、生命倫理や動物解放論などの議論を素材にし、現代の功利主義がどのような問題に取り組んでいるかを踏まえ、その魅力と限界を理解する。

【04 リバタリアニズム:「自由」だけでどこまでいける?】

 ロバート・ノージック『アナーキー・国家・ユートピア』(原著1974年)を主な素材とし、「自由」を最大限に保障しようとする思想としてのリバタリアニズムの魅力と限界を理解する。

【05 共同体論:「個人」はどのように存在するだろうか?】

 マイケル・サンデル『リベラリズムと正義の限界』(原著1982年)での議論を中心に、「リベラル・コミュニタリアン論争」が何を問題にしていたのかを理解する。また、それを受けてのリベラル側の展開についても触れる。

【06 平等論:平等がなぜ大切なのか、そしてそれは何の平等なのか?】

 R・ドゥオーキン「資源の平等」論、A・セン「潜在能力の平等」論など、分配的正義論における「何の平等か?」問題を考察する。

【07 正義論の現代的課題:世界正義・世代間正義】

 国境や時代を超える正義はありうるかという問題について、環境問題や移民問題など具体的なイシューを素材にして考察を深める。また、これまで扱ってきた正義論上の各種の立場が、そういった具体的問題においていかなる含意を持ちうるかを考える。

【08 自由:「自由」とはいったいどういう状態だろうか?】

 古代から現代までの各論者において「自由」がいかに捉えられてきたかを概観する。特にI・バーリンによる「消極的自由」「積極的自由」の分類の意義とその限界など。たとえば、強盗に銃を突き付けられている状態は「自由」であるといえるだろうか?

【09 権利:「権利がある」ってどういうことだろうか?】

 「権利」の意味について、「意思(選択)説」「利益説」の対立や、ホーフェルドによる分類などを素材に理解を深める。各種の権利理解を踏まえたうえで、たとえば「将来世代の権利」「動物の権利」といったものが正当化可能かどうか、あるいはどういった法的構成によれば法的に「戦いやすいか」について具体的に考える。

【10 民主主義:人をつなぐもの?それとも分断するもの?】

 啓蒙思想から現代までの民主主義理論の基本的な論点を整理する。特に「熟議民主主義」「闘技民主主義」など、「新しい」民主主義の諸潮流についてその基本的な発想を理解する。

【11 法概念論:「法とは何か」をなぜ問うのか?】

 「法とは何か」をめぐる議論である「法概念論」の基本的な見取り図を示し、その意義を考える。また、「自然法」論の法思想史的展開を整理し、現代においてどのような意義を有しているかを理解する。

【12 法実証主義:法はどこまで「科学」になれるか?】

 「法」を社会的事実として捉える法実証主義の発想について、ハンス・ケルゼンの法思想を素材にしながら理解を深める。また、H. L. A. ハート『法の概念』(原著1961年)を素材に、「法と道徳の分離」といった基本的な論点を理解するとともに、分析哲学と法哲学の接点についても概観する。

【13 法実証主義論争:ドゥオーキンの問題提起】

 ロナルド・ドゥオーキンによるハート批判、および彼独自の「integrityとしての法」概念について理解し、その後の論争の文脈を追う。

【14 正義論と法概念論:立法と司法の役割】

 これまで扱ってきた正義論、法概念論の各種の立場を再度整理するとともに、現代における「立法」「司法」の役割や正統性について理解を深める。「裁判員裁判」ほか、昨今の日本の司法制度改革の問題にも触れる。

【15 まとめ・ディスカッション】

 これまでの講義内容を踏まえたうえで、受講者の問題関心に応じて具体的なトピックを取り上げ、ディスカッションとまとめを行う。


【成績評価】

・期末レポートを実施する(70%)。講義を踏まえたうえでテーマを設定し、自分なりに整合的と考える法・政治哲学的立場から一貫した論述ができるかどうかを問う。
・毎回、小テストを実施する(30%)。毎回の講義のテーマについて、基本的な理解を問う。
・講義中のディスカッションに積極的に参加した者については一定の範囲で加点を行う。

【参考文献】

・特定の教科書は使用しない。毎回、資料配布またはスライド上映を行う。
・課題文献、参考文献は講義中に適宜、指示する。できるだけインターネット上で読める論文にして、受講者の負担を減らすつもりである。
・本講義全体に関わる参考書は以下の通り。
 1.井上達夫編『現代法哲学講義』(信山社、2009年):
 2.瀧川裕英編『問いかける法哲学』(法律文化社、2016年):
 3.中山竜一『二十世紀の法思想』(岩波書店、2001年):
 4.森村進『法哲学講義』(筑摩選書、2015年):

【注意事項】

・受講者の希望により、講義計画は柔軟に変更する。ここに書いてある計画は「最大限」のものとして理解してほしい。「それよりこういった問題を議論したい」という積極的な提案を望みたい。
・参考文献を講義中に適宜、指示するので、十分に予習すること。また、時事問題を素材として多く取り上げるので、日頃からニュースなどによく目を通しておくこと。
・法哲学は「対話」による思考の深化を何より重視する学問であるため、講義中にできるだけディスカッションの時間をとる。積極的な参加を期待したい。単位取得要件とはしないので無理する必要はないが、議論に参加するのは何より楽しい!はずである。
・質問はできるだけ講義中に行ってほしいが、講義の前後や、メールでも受け付けるので遠慮しないように。
・それでもよく「法哲学」のイメージがわかない、いったい何の役に立つの?という方は、【質問サイト ask.fm まとめ】などもご参考に。こちらで質問してくださってもかまいません。
・参加者の希望に応じて自主ゼミナールも開催する。他大学で行った例としてこちらなど。

ご質問などありましたら遠慮なくどうぞ。
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