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吉良貴之, 寺田麻佑, 高齢化社会における世代間正義の法的基盤構築

高齢化社会における世代間正義の法的基盤構築

2014-16年度 科学研究費補助金・基盤研究C(科研費データベース

このページでは、研究プロジェクトについての情報(成果物、イベントなど)を掲載していきます。

研究代表者: 吉良 貴之(宇都宮共和大学専任講師、法哲学)
研究分担者: 寺田 麻佑(国際基督教大学准教授、行政法):サイト

 ほか、連携研究者・研究協力者として以下の方々にご参加いただいています。(敬称略・順不同)
  中村 安菜 (日本女子体育大学講師、憲法学):紹介
  岡崎 まゆみ(帯広畜産大学専任講師、日本法制史・法史学):紹介Researchmap
  戸田 聡一郎(東北大学助教、脳神経倫理学):Researchmap


研究会の様子

【論考(PDF)】

・寺田麻佑「少子高齢化社会における法制度のあり方――年金制度と世代間正義の問題を中心に」(2017.6.1)
・中村安菜「ドイツにおける国家成員資格の検討――世代内正義・世代間正義の観点から」(2017.6.1)
・戸田聡一郎「バイオバンクと世代間倫理――「連帯」概念を出発点として」(2017.6.1)

【実施状況】

 ▽ 2017.07.XX 論文: 吉良「シルバー民主主義の憲法問題」、『別冊 法学セミナー 憲法のこれから』日本評論社
 ▲ 2017.06.17 講演: 吉良「高齢社会の民主主義って何だろう?――法哲学から考える世代間の助け合い」那須塩原市地域いきいき学部講座(宇都宮共和大学那須C) → スライド
 ▲ 2016.11.12 発表: 日本法哲学会ワークショップ「高齢化社会と世代間正義」(発表:吉良、寺田、中村)
 ▲ 2016.10.28 発表: KIRA Takayuki "Population Ethics in Urban Aging Society," in 10th International Conference on Applied Ethics, 28 October 2016, Hokkaido University, Japan.
 ▲ 2016.10.11 発表: 研究代表者交流会にて、吉良が本研究の趣旨を説明(日本学術振興会)
 ▲ 2016.08.31 論文: 吉良「年金は世代間の助け合いであるべきか?」、瀧川裕英編『問いかける法哲学』法律文化社、2016年8月
 ▲ 2016.02.04 会合: 小幡雅男氏講演・環境法と世代間正義について(国際基督教大学)
 ▲ 2015.12.26 会合: 岡崎「高齢者をめぐる内縁と財産分与について」ほか(東京大学)
 ▲ 2015.11.28 発表: 吉良「世代を超える研究倫理」日本生命倫理学会(千葉大学)
 ▲ 2015.10.05 発表: organized session "Intergenerational Democratic Deliberation for the Long-term Risk Management" in Asia-Pacific Science, Technology & Society Network: Biennial Conference 2015, 5 October 2015, Kaohsiung, Taiwan.(吉良、寺田、中村、戸田が発表)
 ▲ 2015.09.06 会合: 東アジアSTS学会の発表について(@宇都宮)
 ▲ 2015.01.26 会合: 中村「ドイツの移民問題とその「正義」の変化」ほか(東北大学)
 ▲ 2015.01.26 発表: 吉良「世代間民主主義の可能性」東北メディカル・メガバンク機構 第14回倫理・法令・社会連続セミナー(東北大学):告知
 ▲ 2014.10.15 論文: 吉良「憲法の正統性の時間論的分節化」、憲法理論研究会編『憲法と時代』(敬文堂、2014年)
 ▲ 2014.10.09 発表: 吉良「二つの世代間正義をめぐって」、Future Earth / TransDisciplinary 研究会(国立環境研究所)
 ▲ 2014.09.17 発表: 研究代表者交流会にて、吉良が本研究の趣旨を説明(日本学術振興会) → スライド
 ▲ 2014.08.22 発表: KIRA Takayuki, "On Intergenerational Constitutional Legitimacy," in the 2014 9th East Asian Conference on Philosophy of Law, 22 Aug. 2014, Hankuk University of Foreign Studies, Seoul, South Korea. → スライド


2014.9.17 科研費研究代表者交流会 from Takayuki Kira

【全体計画】

1. 高齢化社会における世代間正義論の具体的展開
 1-1 世代間正義論の法哲学的探求
 1-2 世代会計の道徳的含意の探求
 1-3 世代間不均衡を前提とした熟議民主主義理論の道徳心理学的基盤構築
 1-4 高齢化社会における幸福(福祉)概念の分析

2. 全世代の協働・共生を実現する法制度・民主的政治過程構想
 2-1 英米法圏・大陸法圏についての比較行政法研究
 2-2 日本における現状把握
 2-3 制度改革に向けた提言


【研究概要】

 現状の高齢化社会における世代間不均衡がもたらす道徳的・法制度的含意を考察し、実現可能な法制度構想や、全世代的な協働のあり方に向けた提言に結びつけることを目的とする。基本的な研究方法としては、法哲学による理論的・原理的考察による法的基盤構築が中心となるが、思弁的なものに終わらせることのないよう、比較行政法研究者との研究分担によって欧米各国の制度状況を参照し、日本において実現可能な法制度のあり方をつねに吟味する。

■ 研究の背景、位置付け、着想に至った経緯など

1. 法哲学における「世代間正義論」の展開として 
 研究代表者(吉良貴之)は「法哲学」分野を専攻し、法制度に先行する哲学的基盤の構築を目指してきた。具体的には主に「世代間正義論」と呼ばれるテーマから開始した。これはいまだ生まれざる将来世代と現在世代との関係について、資源やリスクの分配のあり方の正義を考えるものである。たとえば、将来世代はいかなる意味で「権利」を有するのかといった法概念論上の問題から、仮に何らかの権利を有するとしてそれは現在においてどのように実現されるべきか、そのために必要な法制度構想はどのようなものであるべきか、といったことを考察してきた。
 「法」はその普遍的な適用を旨とするものである以上、適用対象のさまざまな差異に細かく配慮することには原理的な限界がある。とりわけ、時間軸が導入される問題について、法の普遍性は問い直されざるをえない。上述の世代間正義論は、いまだ生まれざる将来世代との関係を問うものであるがゆえに最もクリティカルな素材を提供するが、そこでの知見はもちろん、現在に生きる人々のなかの世代間の関係、たとえば高齢者世代とそれを支える若年世代はどのような「正義」の関係に立ちうるかといった問題に応用される。むしろ、そういった現実的な問題によってテストされることにより、当初の原理的探求はさらに強靭なものとなるだろう。したがって、現在に生きる人々のあいだでの「世代間正義」のあり方の探求は、将来世代との関係とも合わせ、欠くべからざる問題領域といわなければならない。

2. 「世代会計」の光と闇 
 研究代表者は、1 で述べた「世代間正義論」の具体的展開の一例として「世代会計」の道徳的・法制度的な含意の探求に関与した(2011 年、内閣府「経済社会構造に関する有識者会議」「制度・規範ワーキンググループ」)。「世代会計」とはL・コトリコフらによって開発された手法であり(L. Kotlikoff, et al."Generational Accounting: A New Approach to Understanding the Effects of Fiscal Policy on Saving, " Scandinavian Journal of Economics, 94-2, 1992)、国民を 10 歳程度ごとの「世代」に分け、国家との関係におけるそれぞれの負担と受益の量を棒グラフによって示した表である。税金というかたちで国家に支払った額を「負担」とし、社会保障その他によって国家から得られた額を「利益」とする。両者を比較し、負担と利益のどちらが大きいかを可視化することで、自分が属する世代が他の世代との比較でどれだけ有利または不利な位置にあるのかを一目瞭然にすることに眼目がある。計算方法にはさまざまなものがあり、各種の試算をめぐっては議論が続いているが、日本国では2013年現在、おおむね 50 歳前後が「損益分岐点」となっている。
 高齢者世代になればなるほど受益のほうが大きく、若年世代および将来世代になればなるほど負担のほうが大きくなる。むろん、これは金銭的利益への単純な還元による試算であり、各世代内部の差異に配慮されていない点で限界もある。しかし、そうした可視化によって明確になった世代間関係は、今後の高齢化社会における福祉制度設計などに対して小さくない道徳的含意を持ちうる。たとえば、そこで明らかに不利な立場にある若年世代は、高齢者世代を支えるインセンティヴをいかにして持ちうるだろうか? そこで有利な立場にある高齢者世代は、「逃げ切り」に居直ることなく、真摯に若年世代に向き合うことが可能だろうか? 世代会計のアイデア自体はまだ新しいものであり、現状、こうした道徳的・法制度的含意まで探求する研究はほとんどないが、本研究は前述の「世代間正義論」の展開としてその先鞭をつけるものである。

3. 法学における研究状況と、本研究の位置付け 
 2 で述べたような問題意識によって世代間の関係を探求する研究は、法学においてはいまだ、社会保障法や行政法を中心に、各論的なものにとどまっている。しかし、来たる高齢化社会においては、「世代会計」などによって示された明らかな世代間不均衡を前提に、それでもなお、全世代間の協働のための条件が探求されなければならない。そのためには、個別法領域の研究の重要性はもちろんのこと、それを包括的に体系化し、高齢化社会の現実に即した新しい民主主義理論にむけた原理的思考が不可欠である。本研究が、一方で比較行政法研究によって足腰を固めつつ、法哲学的な探求を中心に据えるのはそうした問題意識ゆえである。

■ 本研究が明らかにすべきこと

1. 高齢化社会における民主主義理論の基盤構築 
 上記 2「世代会計」が示すように、現代の日本社会においては世代間の受益と負担の不均衡が著しく大きなものとなっている。その一方で、高齢化社会を前提とした社会保障制度の改革は喫緊の課題となっている。こうした条件において、世代間対立を激化させることなく、全世代間の政治的協働は可能だろうか? 本研究では、「世代会計」の道徳的含意について、特に民主的政治過程への参加意識のあり方を、近年勃興しつつある道徳心理学(moral psychology)、および熟議民主主義理論(deliberative democracy)の知見を用いることによって明らかにする。特に、高齢者の側の視点に定位し、その具体的な福祉(幸福)のあり方を分析しつつ(幸福概念のライフステージ研究)、有利な立場にある世代がいかにして全世代にとって公正な制度設計へと参与しうるのか、その基盤を構築する。

2. 比較法研究によるフィードバック 
 以上の考察によって構築された基盤は、単に思弁にとどまることなく、具体的な福祉制度設計や、民主的政治過程のデザインに応用される必要がある。現実の制度にとって「使える」ものであるかどうかというテストによって、上述の理論探求の妥当性も検証される。そして、必要に応じて両者を反照的に練り直していくことになる。
 この作業にあたっては、世代間協働を実現するにあたって具体的にいかなる法制度があり、そこにどのようなメリット・デメリットがあるかを、日本だけでなく、高齢化社会が進む先進諸国の法制度との比較のうえで考える必要がある。本研究では、英米法圏について代表者の吉良が、大陸法圏について分担者の寺田麻佑(行政法)が担当し、具体的な制度のあり方の知見を踏まえたうえでそれを上記 1 の法哲学的基盤構築にフィードバックさせる。

■ 本研究の特色、独創性など

 本研究は「法哲学」、特に「世代間正義論」「世代会計」の知見をもとに、高齢化社会における世代間不均衡を前提にした、全世代間の協働条件を明らかにするものである。世代間の利害関係を明確にした上で望ましき「共生」の関係を構想すること、そして法哲学者と比較行政法学者の協力体制により、比較法分析をもとにして現実の法・政治制度構想につなげる点に、従来の研究にない独創性と特色がある。

■ 研究方法(全般)

 本研究は、法哲学的な理論研究と、その理論を具体的な法制度につなげるための比較法研究の二つが柱になっている。前者については、法哲学およびその隣接分野(社会学、心理学、科学技術社会論など)において高齢化社会に関連する各種の文献を購読し、理論的基盤を構築する作業が中心になる。ここでは研究分担者、および関連分野の研究者と定期的に研究会を開催し、意見交換する機会をもつこととする。
 後者の比較法分析においても文献購読により理論構築が中心になるが、それだけでは不足するため、高齢化が進む先進諸国での実際の取組みについての実地調査も並行して定期的に行うものとする。具体的には、英米法圏について研究代表者の吉良貴之が、大陸法圏(特に西ヨーロッパ)について研究分担者の寺田麻佑(比較行政法)が担当し、両者の知見をすり合わせることによって現状認識の共有をはかる。この作業においては特に、法哲学による単独の理論研究ではなく、実定法研究者との連携体制を構築することの強みが発揮されることだろう。
 以上をもとに、特に最終年度においては具体的な法制度構想を世に問うことによって本研究の妥当性や実現可能性を検証し、その結果をフィードバックする。手段としては各種ジャーナルへの論文投稿、論文集の出版、(国際)シンポジウムの開催などが中心となる。また、世代間交流の「現場」を知ることも重要であるため、一般向けアウトリーチイベント(講演会、サイエンスカフェなど)も積極的に開催する。

■ 研究計画(全般)

 1年目の平成26年度においては、本研究の問題設定の基礎固めを意識的に行う。まず 1-1を中心とする基礎理論研究、2-1・2-2を中心とする比較法研究に精力を注ぎ、次年度以降の研究計画のさらなる具体化につなげるものとする。
 2年目以降は、1年目での基礎構築をもとに、焦点をしぼるかたちで道徳的・法制度的含意を追究する作業が中心になる。むろん、比較法研究も並行して行い、理論研究の妥当性をつねに検証するものとする。3年目の最終年度(平成28年度)においては特に、制度構想についての社会的発信を意識的に行っていく。


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