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期末試験(2011.1.20)解答2(論述部分): 吉良貴之

前半は記述部分の解答へ。

注: これはあくまで解答の「例」なので、こういったことを書かなければダメ、というものではありません。異なる立場を主張するものや、講義で話した以外のことでも、バランスよく筋が通った論述がなされていれば大丈夫です。むしろ積極的に、他の教科書などを参照して異なる考え方と比較し、理解を深めてほしいと思います。


1. 契約の法定解除と法律関係の安定性のバランス

(1) 木の価格が取るに足りないほど低い場合、売買契約の重要な構成要素と認めることはできない。したがって本件を債務不履行として契約の解除を認める(543条)ことは、取引の安全性や信頼関係、法律関係の安定性を損なう恐れがあるので慎重になるべきである。契約を解除せず、売り手の過失によって失われた木の損害賠償のみ認める(415条第2文)のが妥当であろう。
(2) しかし、木の価格が十分に大きい場合には売買契約の重要な構成要素と考えられ、そこでは契約の本来の目的が達せられていない以上、契約を解除した上での損害賠償を認める(545条3項)のが妥当である。

【解説】 契約の解除は最後の手段なので、契約の本来の目的が達成されないか、信頼関係がよほど破壊されるなどの事情がない限りは認められないと理解しましょう。安易に解除を認めると、法律(権利)関係の安定性が損なわれてしまうからです。(1)と(2)の場合分けと理由付けはよくできている答案が多かったですが、根拠条文をきちんと書いていないものが見受けられました。「どの条文を使うか」というのは、特にこんなふうに場合によって異なるときにはとても重要なので、忘れずに書くようにしましょう。あと、415条の損害賠償に触れていなかったものもありましたが、(2)とうまく対比を作るには必要です。


2. 危険負担の例外と、それへの対応

(1) 売主(債務者)に帰責事由なく売買の目的物が滅失した場合、その危険(リスク)は債務者の負担となる(「危険負担における債務者主義」:536条1項)。しかし、売買の目的物が特定物の場合はその例外とされ(534条1項)、債権者(買主)の負担となる。本件の場合、骨董品である壷は特定物であって534条1項の対象となるため、条文を素直に解すれば買主は代金を支払わなければならない。
(2) しかし、目的物が滅失しているにもかかわらず代金を支払うのは債権者にとって不合理であるので、契約時にあらかじめ特約を結び、534条1項の適用を排除することが多い。なぜなら534条1項は任意規定であるため、当事者間の合意によって変更可能だからである。また、534条1項の適用を、目的物の実質的な支配可能性の移転時以降に限定して解釈する学説もある。

【解説】 危険負担の説明(帰責事由がない場合であること)をした上で、原則は債務者主義であるものの(536条1項)その例外として534条1項の債権者主義があり、本件の壷は特定物であるためその例外にあたる、という流れです。原則が抜けているものと、例外規定のみ書いて本件へのあてはめがないものが多かったですが、「原則」「例外」「あてはめ」と順序立てて丁寧に書きましょう。(2)の「不合理な場合」はそのままそう書いているものが大半でしたが、「なぜ」不合理なのかは常識的なことなので、問題文の言葉を一つ一つ解説するように心がけるとよいです。学説に言及している答案は少なかったですが、条文解釈のテクニックとして興味深い例であるので、そういうものもあることは覚えておくとよいと思います。


3. 瑕疵担保と錯誤無効

売主に帰責事由がないため、本件は物の売買契約における(1)瑕疵担保責任、または/および(2)錯誤の問題となる。(1) 粗悪なジャムであることを「隠れた瑕疵」と考える場合、買主Bは売主Aの瑕疵担保責任を追求し、契約の解除または損害賠償請求ができる(570条)。(2) 粗悪なジャムであることを法律行為の「要素の錯誤」と考える場合、Bは契約の無効を主張できる(95条)。
(1)は無過失責任であり、損害賠償請求も可能であるが、期間が1年と短い。(2)に期間の定めはないが、要素の錯誤について立証のハードルが高く、また、錯誤に過失がある場合には逆に不法行為責任を問われることもある。双方にメリット・デメリットがあるが、本件が商取引であって権利関係の安定性や信頼関係が特に重視される点を考えべきである。したがって、物についての権利関係の早期安定を目的とする瑕疵担保の制度趣旨に鑑み、瑕疵担保責任によって処理するのが妥当である。

【解説】 (1)(2)の説明自体はよく書けていた答案が多かったですが、本件へのあてはめがないものが見受けられました。(1)(2)のいずれが有利かはケースバイケースなので一般論としては言いにくいのですが、本件は「商取引」であることが明示されているので、それに言及した上で、瑕疵担保の制度趣旨を説明してまとめるのがよいと思います。瑕疵担保は「物についての権利関係の早期安定」を目的とするものですが、民法の各条文にはこのようにそれぞれ目的がありますので、それが何かを丁寧に考えていくと理解が深まります。この場合のように、期間が何年になっているかというのは重要なヒントです。なお、学説では錯誤無効優先説あるいは選択説も有力で、判例もあります。もちろん、その立場で書かれた答案も、論理的に筋が通っていて妥当な結論が導き出されていればマルです。


4. 契約自由の原則と任意規定の意義

(1) 任意規定とは、当事者の契約(特約)によって自由に変更してもよい規定であり、典型的な例としては534条1項の危険負担の例外などがあげられる。それに対し、強行規定は公序良俗や公の秩序に関わるものであって当事者間の契約による変更は許されない。親族法の大部分がそれにあたるとされる。
(2) 任意規定を定める意義としては、[1] 契約時に詳細を定めていなかった場合のデフォルト・ルールとして機能することで法律関係の安定性を守ること、[2] 当事者間の裁量によってケースごとの事情に応じた契約が可能となり、民法が重視するところの契約自由の原則が実質化されること、などがあげられる。

【解説】 よく理解できている答案が多かったです。実際のところとしては、どの条文が任意規定か強行規定かというのはそれほどはっきりしておらず、それぞれについて細かい議論があります。強行規定がほとんどとされていた親族法でも、実際には柔軟な運用がなされている場合が多く、強行規定性はそれほど強くないといった議論が最近は有力になっています。親族法を履修する際には意識してみるようにしてください。ここでは両者の基本的な考え方を押さえておけば足りるでしょう。


5. 裁判員制度の特徴と展望

(1) 日本の裁判員制度の特徴としては、[1] 刑事裁判の第一審のみ、[2] 一部の凶悪犯罪のみが対象、[3] 事実認定だけでなく量刑判断も行う、[4] 全員一致ではなく、裁判官を1名以上含む多数決である、といったことがあげられる。判決に「市民感覚」を取り入れるとともに、「国民の司法参加」を促すといったメリットがあるが、裁判員の過重負担(憲法18条など)や、被告人の裁判を受ける権利(同32条)との関係などが問題とされている。
(2) 法律の素人が感情的に判断することによって極端な重罰化が起こるのではないかと予想されていたが、現在のところ従来の「量刑相場」からの大幅な逸脱はないようである。今後の方向としては、裁判員の負担軽減に配慮していくとともに、「国民の司法参加」を実質化するためには一部の凶悪犯罪だけでなく、むしろより軽微な事件(民事も含め)に対象を拡大する方向も考えられる。

【解説】 法学部だとたいてい「裁判員って何?」と聞かれることがあると思います。この程度の常識的なことはよく理解しておいてください。特に、極端な重罰化傾向のイメージが一般的にあるようですが、一部の性犯罪を除いては、現在のところそれほどでもありません。もっとも、まだ例が少ないので、傾向がある程度わかるにはあと何年かかかります。なお、死刑を含む量刑判断を行うことは一般人にとって責任が重過ぎるのではないか、という意見が多かったです。確かにそうなのですが、だったらその責任を裁判官だけに任せてもいいのか?ということも問題です。そのあたりの考えも深めるようにしてみてください。


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